はじめにみどころ

「日本の美意識」そんな言葉にこんなにも心を躍らせる日が来るとは、一昔前は思ってもいませんでした。
それこそ若かりし頃は、外国から吹いてくる風に憧れて、ファッションやライフスタイルに至るまで
欧米からやって来る最新のものに心を奪われ身を委ねておりました。

そんな私が今、この日本橋という歴史ある街で、この街の長らく続いた開発が終わり
新しいスタートを華々しく切ろうとする時に、江戸はもとより京都や三重という、
より歴史ある文化を題材にこの様な展覧会を開かせていただくことは、とても光栄なことであり、
しかし実際は今でも不思議な夢の中に居る気持ちです。


江戸の時代は、町人のエネルギーによって花開いた文化だと私は認識しております。
少しずつではありますが、庶民の生活も豊かになり、それまでの時代以上に一般の人々が文化や芸術、芸能などに触れる機会も多くなった時代だとのことです。
ここ日本橋も、1604年に全国に繋がる街道の起点となった時から、人・物・文化が往来し江戸の中心として栄えた街です。
いろいろな地域から人が集まり、商売が盛んになり、江戸の中でも一番賑やかな場所でした。
そんな時代にこの江戸の中心に生きていた人は、少しずつ生まれた生活の余裕の中で、生計のためだけでない人生の余分を楽しんで、
そしてそこで生まれた感性が現在にも続く日本の「粋」(意気)となったのではないでしょうか。

本展覧会はそんな時代背景に、質の高い文化や芸術、芸能にやっとこの頃触れて楽しむ機会を持てたり、
世界を旅することにより改めて日本の素晴らしさに気付き始めた私自身を重ね合わせ、
自分の足で歩きながら実際に見て、手に取り、口にし、話を聞いて、学びながら、これはと思って気に入ったものを、自分なりの思いを込めてここに集めました。
それはきっと、上方から下ってくる美しく価値ある文化や、江戸で生まれ発展した文化の端々に初めて遭遇し、目を輝かせていたのであろう当時の人々の様に…。

江戸の中心で開かれる、非日常の花見宴をごゆっくりお楽しみいただければと思います。
最後に、本展覧会を実現するにあたり、想いばかりで何も分からぬ私に知恵と勇気を与えてくれた友人と、信じてご協力くださり学ばせていただいた本物の皆様に
心より感謝と尊敬を重ねて申し上げます。

屋敷主人 木村 英智



 

ある日。江戸の有力者の家に、江戸で歌舞伎者と名を馳せる男から招待状が届く。
招待状には、「私の屋敷で、江戸で最も早い花見を開催いたします。是非、お越しください。」との文面が。
3月初旬に江戸で花見とは気が早いと思い、半信半疑でその男の屋敷を訪れてみると、
「庭にある桜はまだ咲いていないが、屋敷の中に桜が咲き乱れている」と屋敷の主人が言う。
この歌舞伎者、今度は一体何を歌舞くつもりなのか、と疑いながら、屋敷に足を踏み入れると…
回廊にずらっと並べられた着物には全てに桜の柄があしらわれており、更に進んでいくと、
切子や和紙、友禅など、日本の美を代表する品々に様々な趣向が凝らされ、
まるで桜が満開となったかのようである。
そこは、まさに江戸で最も美しい、アートな花見の世界が広がっていた…。

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